地震を予測することは可能なのか?
本文章は、シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」(ネイト・シルバー著)の内容を要約しております。
地震の予測が向上しない理由
カリフォルニア州パサデナは長年にわたり、地震研究の中心地として世界的に有名です。
ここには、1935年にリチャード・リヒターが対数目盛を開発したカリフォルニア工科大学の本部が置かれています。
また、アメリカ地質調査所(USGS)のオフィスもここにあり、多数のトップクラスの地震研究者が勤めています。
2009年9月には、私はその中の一人で、地震予知について数多くの著書を持つスーザン・ハフ博士に会い、彼女の話を聞きました。
彼女はニューヨーク・タイムズに投稿した論説の中で、たまたま当たる地震の予測とメディアの取り扱いについて厳しく批判していました。
ハフ博士によると、たまたま当たった地震予測(ジュリアーニ氏の予測)が一躍注目を集めたのは、偶然が幸運にも重なったためだという。
「ジュリアーニの予測がなんとなく根拠があるように思われたので、人々は注目し始めた。実際には、注意を払われていないだけで、はずれた予測は山ほどある」と彼女は述べました。
数百人が地震を予測している中で、1年に数百回の地震が発生していれば、誰かは当たる確率が出てくる。
ジュリアーニの予測が当たったのは幸運だったということで、これはタコがワールドカップの優勝チームを当てるのと大差ない。
ハフ博士のオフィスはカリフォルニア工科大学のキャンパス内、生徒よりもユーカリの木が多い静かな場所にある。
トルコでの断層系調査から帰国したばかりで、少し疲れた様子の彼女は、温和な外見とウェーブのかかった髪、黒い瞳に疲れと疑いの色が見て取れた。
私が挨拶を済ませると彼女は「あなたの本業は何?」と尋ねてきた。
彼女は机から、お土産屋で見かけるような小さな地球儀を取り出し、日本海から指を滑らせて言った。
「このエリアが活動的なの。中国南部からギリシャにかけての範囲だ」と、甚大な被害を引き起こす地震の多発地帯を指しながら言った。
「弱い構造の建物が多く、大変なエリアだ。テヘランで大きな地震が起きたら、百万人の命が失われるかもしれない」と付け加えた。
実際、近代に発生した大地震のほとんどは、ハフが示したラインに沿って起きている。
このラインは、中東の文明発祥の地から、中国やインドを含む世界で最も人口密集地帯を繋いでいる。
ほとんどの国は貧困と人口密度の問題を抱えており、300年に一度の大災害への備えができていない。
大地震が起こった場合、犠牲者は数十万人に達する可能性がある。
地震での犠牲者数はハリケーンのそれよりも多い。
しかしながら、地震の発生回数はハリケーンよりも少ないように見える。
それは地震がまともに予測されにくいからだろう。
ハリケーンの予測は25年前に比べて少なくとも3倍は正確になっているが、地震の予測はほとんど進歩していない。
日本で9世紀にナマズの動きで地震を予知できるとされて以来、牛、豚、ウナギ、ネズミ、インコ、カモメ、カメ、金魚、ヘビなども地震の前に異常な行動を示すと言われているが、その有効性には変わりがない。
地震を予測する方法は存在するのか?
カリフォルニアの地震予知評価評議会は毎年数百もの地震予知情報を受け取っているそうです。
その大部分は、ペットが異常な行動をしたり、霊感が働いて確信したり、アガサおばさんの外反母趾が酷く痛むなど、科学的でない情報であるとのことです。
一方、学術誌には首を傾げたくなるような研究もあります。
例えば2010年、ジャーナル・オブ・ズオロジー誌に、地震の5日前にラクイラから50マイル離れた池でヒキガエルが突然産卵を停止したという研究が発表されました。
この論文はカエルが地震を感知したからだと主張しています。
ハフはこのような研究には飽き飽きしています。
「何も変わっていないわ。だいたい10年ごとに新しい“画期的な方法”が見つかるけれど、それが10年後には間違っていたと判明するのよ。この繰り返しは止めた方がいい」と彼女は言います。
ジュリアーニの説やヒキガエルの話を抜きにしても、地震を予測する方法が本当に存在しないのでしょうか。
地震学の世界は非常に保守的です。
広く知られるようになったプレートテクトニクス理論も、受け入れられるまでに長い時間がかかりました。
実際に受け入れられたのは1960年代になってからですが、最初に提唱されたのは1912年のことです。
ハフの懐疑的な態度も、このような伝統に則っているのかもしれません。
アメリカ地質調査所の公式見解はさらに断定的で、「地震は予測できない」と明言しています。
研究所のウェブサイトには「USGSやカリフォルニア工科大学を含む、これまでに大地震を予測した研究者はいない。
現時点では予測する方法がわかっておらず、将来に予測できるようになるとも思っていない」と記されています。
しかし、本書は予測に関するものであり、実際に予測をする本ではありません。
ただ、私は敢えて予測してみようと思います。
私の予測では、来年はニュージャージー州よりも日本で多くの地震が起こるでしょう。
そして、今後100年のうちのいつかカリフォルニア州で大地震が起こるでしょう。
予測(prediction)と予想(forecast)は多くの分野で様々な意味で使用されています。
- 予測(prediction)とは、いつ、どこで地震が発生するか限定したものをいう。
(例)6月28日、日本の京都で大地震が起こるだろう。 - 予想(forecast)は、長期間にわたる確率論的な事象を表す用語である。
(例)この先30年間に南カリフォルニアで大地震が起きる確率は60パーセントである。
アメリカ地質調査所の公式な立場は「地震は予測(prediction)できない」というものだ。しかし、予想(forecast)はできる。