なぜ政治に関する予測は外れるのか?
本文章は、シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」(ネイト・シルバー著)の内容を要約しております。
政治学者の予測は正しいのか?
当時、カリフォルニア大学バークレー校で心理学と政治学を専門としていたフィリップ・テトロックはソビエト連邦崩壊予測のケースに触発され、他の分野での「専門家の予測」について調査を始めました。
彼は1980年代から1990年代にかけての重要な事件や議題に焦点を当てました。
これには湾岸戦争、日本の不動産バブル、カナダのケベック州の独立問題などが含まれます。
政治学者たちがソ連の崩壊を予測できなかったのは一つの例外だったのでしょうか?
それとも、専門家の分析が本当に価値がないものなのでしょうか?
テトロックの15年以上にわたる調査は、2005年に「Expert Political Judgement(専門家の政治判断)」という書籍で出版されました。
この書籍には衝撃的な結論が記されています。
調査に参加した専門家の正解率は、その職業、経験、専門分野にかかわらず、単なる偶然の範囲内であり、基本的な統計的方法を用いた回答よりも悪い結果でした。
彼らは自信満々に予測を行いましたが、その予測は大幅に外れていました。
専門家が「絶対に起こらない」と予測した出来事の15パーセントが実際に起きました。
また、「絶対確実」とされた事象の25パーセントは起こりませんでした。
経済、国内政治、国際関係など予測の対象となった分野を問わず、専門家たちの成績は悪かったのです。
ハリネズミとキツネの予測家
より良い予測をするためには、「キツネ」のような姿勢が必要です。
専門家のパフォーマンスは全体的には悪かったものの、テトロックは比較的良い結果を出している専門家もいることに気づきました。
正解率が低かった専門家たちはメディアによく登場し、頻繁にインタビューを受ける人たちでした。
これらの専門家は予測が外れる傾向にありました。
一方で良い結果を出していたグループも存在しました。
テトロックは心理学者として、専門家たちの認知スタイル、つまり彼らが世界をどのように見ているかに焦点を当て、性格を探る質問を行いました。
専門家たちの回答を基に、テトロックは彼らを「ハリネズミ」と「キツネ」の2つのグループに分けました。
この分類は、アイザイア・バーリンがトルストイに関して書いた「ハリネズミとキツネ」というエッセイから取られており、それはさらに古代ギリシャの詩人アルキロコスの言葉に由来します。
「キツネは多くの小さなことを知っているが、ハリネズミは一つの大きなことを知っている。」
- ハリネズミとは、大きな考えを信じている人たちです。
彼らはそれがまるで自然界の法則であるかのように機能し、社会のすべての相互交流を実質的に支える基本原則があると信じています。
カール・マルクスと階級闘争、フロイトと無意識、またはマルコム・グラッドウェルと「ティッピング・ポイント」がいい例です。 - キツネは特定の原則に固執せず、多くの小さな考えを信じており、問題に対して様々なアプローチを試みます。
彼らは微妙な差異や不確実性、複雑性、異なる意見に対して寛容です。
ハリネズミが大物を狙う狩猟者であるならば、キツネは採集者です。
テトロックによると、「キツネ」の方が予測能力に優れていることが明らかになりました。
ソ連崩壊の例では、「キツネ」の予測がより正確でした。
彼らはソ連をイデオロギー的なレトリックで捉えず、実際に存在する行政のほころびや機能不全を把握していました。
一方で「ハリネズミ」の予測はランダムに選ばれた結果よりも悪かったのです。
結局、「キツネ」の方が予測能力が高いと証明されたのです。